ストーリー - Story

 1943年5月。KGBの幹部であるドミートリ・アーセンティエフ大佐(オレグ・メンシコフ)が、モスクワのスターリン私邸に呼び出された。年老いたスターリンと面会したドミートリはピアノを弾くよう命じられ、思いがけない質問を投げかけられる。
 「コトフについて知っていることは?」
  革命の英雄として名高い元陸軍大佐アレクセイ・セルゲーヴィチ・コトフ(ニキータ・ミハルコフ)は、かつてスターリンに背いた罪で逮捕され、記録上はすでに銃殺刑に処されたはずの人物である。しかし裏切り者の根絶に異様な執念を燃やすスターリンは、独自の情報からコトフがまだ死んでいないと睨み、ドミートリに彼の捜索を厳命する。
 コトフとドミートリの間には深い因縁があった。あれは1936年の燃えるような夏の日のこと。モスクワ郊外の避暑地で休暇を過ごすコトフのもとを訪ね、彼を強引にクレムリンへと連行したのは、ほかならぬドミートリ自身だった。コトフの若く美しい妻マルーシャは、ドミートリの元恋人である。その最愛の女性との仲をコトフの巧妙な策略によって引き裂かれたと信じるドミートリは、スターリンの大粛正に乗じて憎き恋敵への私怨を晴らしたのだ。マルーシャを取り戻したドミートリは、彼女とコトフの間に生まれたひとり娘ナージャ(ナージャ・ミハルコフ)を密かに匿ってやる。それが反逆者の家族が生き延びられる唯一の道だった。かくしてスターリンの命を受けたドミートリは、さまざまな複雑な思いに駆られながら、戦時中のコトフの消息をたどっていく……。

 1941年6月。コトフは多くの政治犯たちとともに劣悪な強制収容所で重労働を強いられていた。折しも同月22日にソ連への侵攻を開始したドイツ軍の戦闘機が飛来し、まともに爆撃を浴びた収容所はまたたく間に火の海と化してしまう。からくも収容所を脱したコトフは、逃走中にある川に身を潜め、ドイツ軍から逃げ惑う大勢の農民の凄まじいパニックを目撃する。

 同じ頃、ドミートリの計らいで党の少年少女団に所属していたナージャは、意思の強い少女へと成長し、今なお5年前の夏に突然姿を消した父親コトフへの思慕の念を抱いていた。そのことを諫めるドミートリに反発したナージャは、彼がふと垣間見せた困惑の表情から重大な事実に気づく。 「……お父さんは生きているのね?」

 同年8月。従軍看護師となったナージャは、子供や傷病兵とともに赤十字の船に乗り込み、海上で3機のドイツ軍機と遭遇する。ひとりの傷病兵の錯乱した行動に激高した敵のパイロットは、赤十字の船を攻撃してはならないという戦争協定を無視して一斉射撃を開始。船は沈没し、乗船していた兵士と子供の大半が還らぬ人となった。危ういところを司祭に救われたナージャは、機雷にしがみついて海を漂いながら洗礼を授けられる。そして浜辺への生還を果たしたナージャは、生き別れた父親を捜し出すことこそ自分に与えられた使命なのだと改めて心に誓う。

 同年10月。懲罰部隊に一兵卒として加わったコトフは、雪と霧に煙る平原でドイツ軍の進撃を阻止するための要塞の建造に従事していた。国家のために尽くしてきた英雄のコトフにとってそれは屈辱的な仕打ちだったが、陽気なならず者ばかりで構成された懲罰部隊の居心地は不思議と悪くなかった。  やがて若い士官候補生のエリート部隊が合流し、要塞造りは急ピッチで進められるが、突如として遠方から不気味な地鳴りが響いてくる。ひょっとするとモスクワからの援軍が到着したのではないか。そんな兵士たちの歓喜の期待は、すぐさま戦慄に変わった。想定していたルートとは正反対の方角からドイツの恐るべき戦車軍団が押し寄せてきたのだ。貧弱な装備しか与えられていないコトフの部隊は、為す術もなく敵に蹂躙され、歩兵との接近戦でひとりまたひとりと絶命していく。雄大な雪原は死屍累々の地獄絵図へと変貌し、生き残ったのはコトフとほんのわずかな仲間だけだった。

 一方、父親を捜しながら各地を放浪するナージャは、とある田舎の村人全員を火あぶりにするドイツ軍の蛮行を目の当たりにして衝撃を受ける。さらに熾烈なモスクワ攻防戦で瓦礫の山と化した都市部では、血まみれの重傷を負った若い兵士とめぐり合った。まだ女の子とのキスの経験もないと告白するその兵士は、出来うる限りの手当を施そうとするナージャに「君の胸を見せてくれ」と懇願した直後に息絶えてしまう。

 お互いがどこにいるのか知る由もなく、戦場をさまようコトフとナージャの脳裏をよぎるのは、あの夢のような幸福で満たされていた1936年夏の美しい情景だった。はたして心から再会を願う父と娘は、奇跡をたぐり寄せることができるのか。そしてコトフを知る関係者からの証言を集めるドミートリは、いかなる真実を掘り起こすのだろうか……。