イントロダクション - Introduction

カンヌ映画祭とアカデミー賞を制した
至高の傑作『太陽に灼かれて』から16年
ロシアの巨匠が放つ入魂の超大作

 1994年にロシアで生まれた1本の映画が、世界中の観客に忘れえぬ感動と衝撃をもたらした。カンヌ国際映画祭審査員グランプリとアカデミー外国語映画賞をダブル受賞したその映画『太陽に灼かれて』は、巨匠ニキータ・ミハルコフが古き良きロシアへの郷愁をこめた美しい情景の中に、男女3人の狂おしいまでに数奇な愛憎模様を紡ぎ上げたラブ・ストーリーである。また同時に、ペレストロイカ以前はタブーとされていたスターリンの大粛清という歴史の闇に切り込んだこの映画は、『機械じかけのピアノのための未完成の戯曲』『黒い瞳』や近作『12人の怒れる男』といった幾多の傑作を世に送り出してきたミハルコフ監督の紛れもない代表作となった。
 『戦火のナージャ』は、『太陽に灼かれて』から実に16年の時を経て完成した続編である。1936年夏のわずか一日の出来事を描いた『太陽に灼かれて』は、主要登場人物の非業の死によって完結したかに思えたが、『戦火のナージャ』では実は生き長らえていた彼らがさらなる過酷な運命をたどっていく様を語り明かす。物語の背景となるのは、第二次世界大戦中に繰り広げられたソ連とドイツの全面戦争だ。とりわけ思い入れの深さを感じさせるこの企画に取り組んだミハルコフ監督は、準備&製作に8年もの歳月を費やし、ロシア映画史上最大となる巨額の製作費を投入。ミハルコフ作品特有の格調高い映像美学が遺憾なく発揮されているのはもちろんのこと、壮大なスケールの面でもハリウッド超大作を凌駕せんとする破格のヒューマン・スペクタクル劇に仕上がった。

ロシア映画史上最大のスケール感で
戦争の悲惨さと不条理をリアルに表現した
格調高くも熾烈を極めた映像世界

 ミハルコフ監督は『戦火のナージャ』を構想するにあたり、スティーヴン・スピルバーグ監督作品『プライベート・ライアン』から多大なインスピレーションを得たという。連合軍によるノルマンディ上陸作戦の模様を激烈極まりない映像と音響効果で再現した『プライベート・ライアン』は、言わずと知れた戦争映画史上の革新的な一作。とはいえ「スピルバーグの撮影技術に対抗する気は毛頭なかった」と語るミハルコフは、連合軍側の歴史観やハリウッド映画の流儀に迎合することなく、従来のロシア映画の定型にも収まらないアプローチの戦争大作の創造に挑戦した。
 両国合わせて数千万規模とされる莫大な戦死者を出した独ソ戦の攻防を、圧倒的な臨場感とリアリティをこめて映像化。英雄的なキャラクターはひとりとして登場せず、大地や海が血に染まる苛烈な戦闘スペクタクルが全編にちりばめられている。その半面、ミハルコフ監督らしい詩的な感性に満ちた自然描写、ユーモアや音楽を積極的に導入した豊かな人物描写も健在で、ひたすら惨たらしい戦場の悲劇とのコントラストが鮮烈な印象を残す。
 またミハルコフ監督は、この心血を注ぐ一大プロジェクトを3部作へと発展させることも決定。すでに『THE CITADEL(要塞)』と題された次回作の製作に取りかかっている。