ローマに暮らすジェンマ(ペネロペ・クルス)のもとに、ある日1本の電話がかかってきた。それは青春時代を過ごしたサラエボに住む旧い友人ゴイコ(アドナン・ハスコヴィッチ)からのものだった。ジェンマは16歳になる息子ピエトロ(ピエトロ・カステリット)との難しい関係を修復するためにも、彼を伴って自らの過去を訪ねる旅に出ることを決意する。
──20年以上前サラエボに留学していた女子大生のジェンマは、そこでゴイコから若きアメリカ人ディエゴ(エミール・ハーシュ)を紹介された。一瞬で恋に落ちた二人は、ひと時も離れていられないくらいの愛で結びつき、やがて結ばれ、ローマで新婚生活を送り始めたのだった。誰もが望むこと…愛する人との子供が欲しい。しかし、ジェンマの小さな夢は無残にも打ち砕かれてしまう。
ヨーロッパの東に位置するこの国には、国境を越えて自由を謳歌する若者たちが集っていたが、都市サラエボにも不穏な空気が流れ、遂に悲しい民族紛争の火ぶたが切られてしまった。
カメラマンのディエゴは、戦場の現実を記録するためローマから一人サラエボに向かう。後を追ったジェンマもかつての友人たちと再会し、人道支援活動に参加し、以前とは180度違う状況下のサラエボに暮らし始めたのだった。そんな日々の中でもジェンマはディエゴとの子供が欲しいという夢を捨てきれず、二人は代理母を探し始め、ミュージシャンを目指すアスカ(サーデット・アクソイ)という女性に出会った。意志の強い瞳と熱い夢、長い髪をもつアスカと二人は意気投合し、ジェンマはアスカに代理母としての願いを託すのだった…。
しかし戦況は悪化の一途をたどり、国内には血で血を洗う無残な日常が繰り返され、かつての美しい街はその姿を失っていった。そして、アスカは男の子を出産したが、産まれたばかりの赤ん坊の身を守るためにもジェンマはイタリアに戻ることを選択する。
だが、軍の助けで1秒を争って帰国の機に搭乗する直前、ディエゴはパスポートを持っていないことを理由に一人サラエボに残ることを余儀なくされた。
──それがジェンマとディエゴにとって永遠の別れになることも知らない二人だった…。
それから16年。当時、命からがらサラエボを脱出した母と乳飲み子を助けてくれた大尉と再婚したジェンマは息子をともなって、サラエボを訪れた。懐かしいゴイコとの再会、そして蘇る青春の日々。
ともに白髪交じりの年齢になった二人は、亡きディエゴとの思い出を語り合い、回想する。もう一度懐かしい場所を歩き、時を遡って思いにふけるジェンマと立派に成長したピエトロを温かい眼差しで見守るゴイコは、旅の最後にこの母子をある島へと誘う。そこには──ジェンマが思いもしなかったあまりにも深い愛の真実が待っていた。